yaso
森から生まれるプロダクト
八ヶ岳の稜線に囲まれた高原都市、長野県の茅野(ちの)市。自然がとても身近にあるこの町から、「yaso(ヤソ)」は森の素材を生かしたプロダクトを発信しています。
そのほとんどは木からできていますが、製品を作るために樹木を伐採することはありません。ものづくりのベースには、ツリーケアを行う「木葉社(もくようしゃ)」の取り組みがあります。
樹木と人をつなぐアーボリスト
木葉社では、植木屋さんのように剪定や伐採もすれば、林業のように苗から樹木を育てもするし、樹木医として診療もします。「樹木の専門家=アーボリスト」として、木にまつわるあらゆる仕事を行っています。
アーボリスト、耳慣れない言葉です。「簡単に説明するなら、“人の暮らしと植物の調整をする仕事”でしょうか」と話すのは、野澤崇徳さん。代表の小池耕太郎さんとともに木葉社を立ち上げた人物で、きこりであり、樹木医でもあります。
依頼を受ける現場は個人宅の庭や公園、神社など、人が暮らす町が中心。特殊な技術でロープを使って木に登り、機械が入れない狭い場所でも作業できるのが強みです。枝葉の傘の下にもぐりこめるので、この技術は木を診察するうえでも役立ちます。
どの現場でも、依頼されるままに樹木を伐採するのではなく、木にとっても、人にとっても無理のない提案をします。なるべく木にダメージが少ない方法を考えますが、状況によっては伐採して新たに植樹することも。こうした「世代交代」は、空気を作ったり水を蓄えたりする樹木の公益的機能を最大限引き出すうえで、重要だと考えています。
「木のことを知っている視点から、人の暮らしをよりよくするお手伝いができたらいいなと思っています」と野澤さん。木の「友人」のような、木と人をつなぐ「翻訳者」のような存在——アーボリストに、そんな印象を持ちました。
1本の木の価値を高めるために
木葉社の仕事では、多くの木材が出ます。幹は建築資材になりますが、枝葉は大半が廃棄されることに。1本の木の価値を高めるためにも、何かに活用できないか。そんな視点から、yasoがスタートしました。
使われている多くの樹木は、アカマツです。日本中に生息する針葉樹ですが、線虫によるマツ枯れの被害が、伝染病として全国的に広まっているそうです。茅野市は、難を逃れてアカマツが残る数少ない地域の一つ。とはいえ、いずれは被害がおよぶと推測されています。
枯れてしまう前にアカマツの魅力を知ってもらい、価値あるものとして守りたい。そうして始めたのが、松葉を乾燥させてつくるお茶です。さらに枝葉を蒸留してお香やエッセンシャルオイルを、樹皮を染料とした草木染の布小物を、若いマツボックリを素材に使ったビールを、というようにアカマツを余すことなく生かしながらyasoの商品ラインアップは広がっていきました。
森のカケラをリデザインして届ける
ブランド名の由来は、「あまたのもの」を意味する「八十(やそ)」という言葉です。日本の森林や林業の現場にあるたくさんの魅力を伝えたいという思いで名付けられました。
その名のとおり、アーボリストたちが、森に近い仕事や暮らしのなかで「いいな」と感じて採取した枝葉や樹木の数々がプロダクトに。デザインはパートナーである東京のデザイン事務所が手掛けています。
自然から生まれる繊細な色使いや香りがより引き立つように、大仰な装飾はなくとてもシンプル。yasoは、森や山と接点がない都会に住む人々に、植物の生命力を感じる「森のカケラ」を届けてくれます。