株式会社Y[SOGU]
シンプルという言葉では足りないほど
「SOGU(ソグ)」のプロダクトは、ぱっと見ただけでは何に使うものかがわかりません。
たとえば、タバコほどの大きさのステンレスパイプと、弾力があるシリコン製のコードが輪になった製品は、トイレットペーパーをストックするためのツールです。同じ組み合わせでもパイプとコードの長さが違ったアイテムは、部屋の隅に三角形を描いて空間を生み出して、小物掛けや傘立てになります。
つくりやデザインは、シンプルという言葉では足りないほどにシンプルです。だからこそ、知れば知るほど「なるほど!」とうなりたくなるアイデアが光ります。
使ってほしい人はデザイナー、つくる人もデザイナー
ブランドを運営する株式会社Yは、大阪市西区を拠点に活動するデザイン事務所です。
プロダクトデザインを軸にさまざまなメーカーやブランドの商品企画を手がけながら、「自らもメーカーであることで、よりクライアントの力になれる」という考えのもと、2018年に「SOGU」をスタートしました。
同業者であるデザイナーを理想のユーザーとして、自分たちが使いたい雑貨を企画・販売しています。
モノの要素を分解して、整理する
ブランド名の由来は、“削ぐ”という言葉です。「これは単にデザインや造形を削ぎ落とすことではなく、モノの本質を見極める思考を意味しています」と話すのは、代表の三宅喜之さん。Yでのデザインワークでも、最も大切にしていることだといいます。
イメージしやすいように、プロダクトのひとつである「9°BOOK STOPPER」を例にしてみましょう。用途は本立てですが、わずかに傾斜がついたスチール製のプレートで、一般的なものとは違います。
「ブックエンドがないとき、一番端の本を内側に傾けて、並べた本が倒れないようにしていませんか? 誰もが自然と行っている動きをヒントに、端の本を”傾ける”かつ”すべらせない”という2つの要素を満たせば、本立てとしての役割を果たせることに気がつきました。好きな表紙や裏表紙を隠さないで置ける長所は、嬉しい副産物でしたね」と三宅さん。
このようにモノが成り立つ要素を分解して、「どの要素があれば役割を果たすか、当たり前にあるこのパーツは本当に必要なのか」と整理することから、SOGUのものづくりは始まります。
何もしていないようで、緻密につくりこまれたプロダクト
発想の源は、デザイナーである三宅さんたちが感じる「事務所の景色が整わへんなぁ」という違和感だそうです。
「私たちにとって事務所は、どんな仕事をするデザイナーかを表す場所です。たとえば見てほしいはずのプレゼン資料より目立つマグネットなど、主張するデザインはデザイン事務所の景色としては“ノイズ”になります。そういった『小さくイラッとしてるやろなぁと思うこと』を見つけて、解決できるデザインをしています」と、三宅さん。
先ほど例にあげた「9°BOOK STOPPER」は、スチールをグレーでカラーリングしたもの。一般的にこのような塗装製品には小さな穴があるそうですが、これにはありません。
「穴があると吊り下げられるので、裏表を1工程で塗装できるんです。でもデザインとしては“ノイズ”になるので、穴を無くしています。そのため、表・裏・仕上げと、塗装と乾燥を3回繰り返すという手間をかけてもらっています。工場の方に相談したら、最初は戸惑ってはりましたねぇ(笑)」
「使っていないときに、いかに存在感が消えているか」に心血を注いでデザインされているSOGUのプロダクト。どれもプレーンに見えますが、“ノイズ”を削ぎ落とすために計算されたデザインと、プロダクトデザイナーならではのこだわりが、隅々にまで盛り込まれています。
“売って終わり”では、あかん
潔いほどシンプルでかっこいいプロダクトを生み出す、デザイン事務所の経営者である三宅さん。オンライン取材で実際にお話をうかがうまでは、勝手にクールな方をイメージしていたのですが、そのイメージをとてもいい意味で裏切る方でした。
柔和なやさしい笑顔に、おっとりとした大阪弁で、とても気さく。モニター越しに製品を見せながら、一つひとつていねいに説明してくださいます。そして、販売店である「いちじつ」のことを知ろうとしてくださる姿勢が、会話の端々から垣間見えます。
その背景にあるのは、「売って終わり、ではあかん」という考えです。
「販売店の方々は、思いを一緒に届けてくれる仲間だと思っています。そのため、お店のユーザー層と私たちの商品が合っているのか、注文をリピートしてもらえるのかなど、お互いの利益になるように卸先のこともきちんと知っておく責任があると感じています。パッケージや最低発注数など、卸先のために製品以外の部分がどうあるべきか、ということは常に考えています」
なくても困らない、名脇役を生み出す
生活のなかで必ず使うトイレットペーパーや本を主役とするならば、SOGUのアイテムはそれらを支える名脇役たち。主役をあってほしい場所にすっきりと収めて、空間をきれいに整えてくれます。
「なくても困るものではないですが、新しい発想を見てもらえることを楽しんでいます」と三宅さんは話します。次はどんなおもしろいものが生まれるのか、とても楽しみです。