小野海事商店
船や海とゆかりの深い町から
いくつもの川と運河に囲まれた大阪の大正エリアは、渡し船が往来する水辺の町。フェリーや商船が発着する南港がすぐ近くにある、船や海とゆかりの深い地域です。
造船所や船具店が点在するこの町で、小野海事(かいじ)商店は昭和7年に創業しました。創業者はヨットに乗ることが趣味で、その際に必要な記録をする航海日誌をオリジナルで制作・販売したことがはじまり。
実際に船を操縦する者の視点で作られた航海日誌は、使いやすさから人気を博し、今でも多くの船乗りたちに愛用されています。
「海の地図」をステーショナリーに
いちじつ でお取り扱いしているのは、廃版海図を使用したステーショナリーです。
海図とは、船を操縦する人たちが使う海の案内地図のこと。安全に航海できるように、沿岸の地形や水深、浅瀬、さらに灯台の位置や海流などが詳しく記されています。大小問わずすべての船に海図の携行が世界中で義務づけられていて、船に乗るうえでとても重要なものです。
時代の流れに伴って現在はデータも活用されていますが、海の世界ではまだまだ印刷物が重宝されているようです。日本では海上保安庁が刊行しています。海図の更新情報は毎週発行されるほど、海の地形や状況は絶えず変化しているのだとか。小さな修正は手書きで対応するそうですが、ときにはページまるごと改版され、情報が古い海図は「廃版」となります。
船を操縦する際に廃版海図の使用は禁止されているため、販売用に印刷されたものは処分対象に。小野海事商店では、海図を販売する企業から廃棄される海図を譲り受けて、封筒やレターセットに加工しています。
当初はあるステーショナリー企業から仕入れていましたが、その会社での生産終了を機にノウハウを引き継ぐことに。ラインアップを増やして、2010年ごろからオリジナル商品として生産を始めました。
再生ステーショナリーならではのおもしろみ
海図はもともと製品化するためにつくられているものではないため、ステーショナリーとして生まれ変わったときの図柄の出方はさまざま。海を表す白い面がほとんどになることもあれば、色付けされた陸地や島、浅瀬が多い面はちょっとカラフル。そんなふうにデザインがまちまちなところも、楽しい魅力のひとつです。
「譲っていただいた貴重な海図を無駄にしないよう、捨てる箇所を最小限にして裁断するため、どうしても仕上がりには偏りが出ます。とはいえ、同じようなデザインばかりではつまらないでしょう」と小野徳子さん。海図の裁断や加工は取引先の工場にお願いしていますが、なんと最後の梱包は社員自らの手作業で行っているのだとか!
それは、ひとつのセットの中になるべくいろんなデザインが入るようにするためです。もちろん手間も時間もかかりますが、「手にとってくださった方に楽しんでほしい」という思いからこだわりを持って続けている作業のひとつです。
創業から海や船にまつわる商売一筋
日本で船の解体が盛んに行われていた昭和時代には、船舶骨董品と呼ばれる、解体船で実際に使われていた舵(かじ)や錨(いかり)を販売していた小野海事商店。それ以降もずっと、船や海にまつわる商売一筋で90年あまり続いてきました。創業者である祖父と、先代の父から会社を引き継いだ代表の平野淳子さん・小野徳子さん姉妹は、今も創業時から続く航海日誌のほか、マリンスタイルの雑貨を販売しています。
「海や船旅の楽しさを感じてほしい」との思いを込めてつくられている、小野海事商店のマリングッズの数々。封筒やレターセットに生まれ変わった海の地図は、海の香りとロマンを届けてくれます。