AJI PROJECT
最高級の石を暮らしの道具に
「庵治石(あじいし)」って知っていますか? 香川県高松市の牟礼(むれ)町と庵治町にまたがる五剣山だけで産出される石の名称で、青みがかったグレーが美しい石です。墓石に多く使われています。
最高級石材といわれており、別名は「花崗岩(かこうがん)のダイヤモンド」。1才(石を数える単位で、1辺約30.3センチの立方体)が原石で10〜20万円、加工をすればさらに価値がはね上がるそうです。
高く評価される理由は、ほかには無い強さと美しさから。彫刻家のイサム・ノグチ、流政之(ながれ・まさゆき)など、名だたるアーティストたちも魅了され、多くの作品を残しました。
玄人の間では有名だけど、一般的にはその名が知られていない。そんな銘石を身近に感じてもらうことを目的としてスタートしたブランドが、「AJI PROJECT(アジプロジェクト)」です。庵治石を暮らしになじむプロダクトに変換して発信しています。
石工職人の技術を生かしたプロダクト
高松市の東部に位置する牟礼町と庵治町は、茨城県真壁町、愛知県岡崎市とともに「日本の三大石材産地」と呼ばれています。産業規模は三大産地のなかで最も大きく、山から石を切り出す採石にはじまり、加工、建立、運搬まで。分業体制が整っていて、町全体が大きな石材工場のようなものだそうです。
石の加工はさらに分業化されていて、割り、造形、研ぎ、字彫り、建前(たてまえ)など、それぞれ専門の職人がいます。AJI PROJECTのプロダクトには、これらの技術が存分に生かされています。たとえば、いちじつ でお取り扱いしている本立ての「ROCK END(ロックエンド)」には、山から石を切り出す「採石」、石をカットする「割り」、鏡面のように仕上げる「研ぎ」の技術が使われています。
AJI PROJECTを運営する「蒼島(あおいしま)」の代表・二宮力さんも、「字彫り」専門の石工(いしく)職人として活躍してきた一人。すべてのプロダクトに彫られているロゴマークは、二宮さんによって施されています。
自然の石そのままの佇まいが魅力的なROCK ENDですが、石工職人の巧みな技術があってこそ、暮らしの道具として輝きます。
墓石からまったく別の市場へ
“石の町”として、1000年以上の歴史がある牟礼町と庵治町。庵治石の需要は時代とともに移り変わり、古くは大阪城などの城壁として、戦時中には飛行機製造時の定盤として重用されてきました。国立競技場の聖火台や首相官邸など、日本を代表する現代建築にも庵治石が多く用いられています。
ここ100年ほどは墓石としての活用がメインでしたが、墓を建てる人の減少に加えて、安価な外国産の墓が出回るように。職人仲間が泣く泣く廃業する姿を、二宮さんはたくさん見てきました。
「私たち職人の技術は、10〜15年ほどかけて結実するものです。追われるように町を出ていったり、絶望してしまったり……職人仲間がそんな最後を迎えることが寂しくて、悔しかったですね」と二宮さん。
苦労して磨いた技術を生かす場が減っているならば、まったく別の市場に挑戦してみたい——そんな思いから、2021年に蒼島を立ち上げました。
庵治石の産地から発信
暮らしのプロダクトを発表するAJI PROJECTでは、おもにデザイナーのイトウケンジさんの発案を基に、プロデューサーとして二宮さんが石工職人たちのどの技術を使うかを決めています。反対に、石工の技術を生かすデザインを考えてもらう形で、プロダクトが生まれることもあるそうです。
洗練されたデザインと、庵治石を知り尽くした職人のきめ細かな技術が融合したAJI PROJECTのプロダクトは、現代の暮らしに違和感なくなじみます。
「人が最初に使った道具は石でした」。これは、製品に添えられているメッセージ。庵治石の産地から発信される暮らしのプロダクトが、今一度、石を身近なものにしてくれます。