HIBI-Ne
危機を乗り越え、歴史を紡ぐ「大堀相馬焼」
「大堀相馬焼」は、福島県浪江町の大堀地区で、江戸時代から300年以上にわたり受け継がれてきた焼きものです。1978年には国の伝統的工芸品にも指定されました。元禄3年に始まり、江戸時代末期には、窯元が100軒を超える産地へと発展しました。
当時はさまざまな生活雑器が作られていましたが、相馬藩の保護を受けながら地域の特産品として発展するなかで、職人たちは独自の土地の素材を生かしながら技法や表現を磨いていきました。
そうして誕生したのが、大堀相馬焼の代名詞ともいえる、器の表面に細かく広がる「青ひび」の技法でした。
しかし、明治時代の廃藩置県や戦争、そして近年の東日本大震災による全町避難と、大堀相馬焼は幾度となく存続の危機に直面してきました。
一時は製造が困難になるという厳しい状況に陥りましたが、現在は約半数の窯が福島県内の新たな地で再建しています。
職人たちの「技術を次の世代へ残したい、この地からもう一度立ち上がりたい」という一途な想いが、今も伝統の灯火を未来へつないでいます。
大堀相馬焼を形づくる、3つの特徴
長い歴史の中で磨かれ、現代に受け継がれている大堀相馬焼には、主に3つの大きな特徴があります。
・青ひび(貫入): 素地と釉薬の収縮率の違いによって生まれる細かなひび模様
・走り駒(馬の絵): 相馬藩の「御神馬」を描いたもの。縁起がいいとされている
・二重焼: 保温・保冷性に優れ、熱いものを入れても手に熱が伝わりにくい構造
この歴史ある陶器と復興への歩みを、現代の暮らしに調和するインテリアとして新たな形で伝えるために立ち上げられたのが「HIBI-Ne(ヒビネ)」です。
「HIBI-Ne」ではなかでも、大堀相馬焼を象徴する「青ひび」に注目しました。
ブランド名の由来は、青ひびの「ひび」と、暮らしに寄り添う「日々」という二つの意味を持つ「HIBI」に、「音(Ne)」を組み合わせたもの。では「音」とは何でしょうか?
実は「青ひび」は、焼き上がって窯から出され、貫入が入るときに繊細で澄んだ音色を奏でます。福島県の「残したい“うつくしまの音”30景」にも選ばれているその神秘的な「音の記憶」を、日常空間のなかで表現したい——。「HIBI-Ne」は、そんな想いから生まれたブランドです。
ふたつの窯元、それぞれの職人が受け継ぐ歴史と革新
「HIBI-Ne」のランプシェードは、同じ大堀相馬焼でありながら、それぞれの歩みと魅力を持つふたつの窯元によって作られています。
ひとつは、13代続く「錨屋(いかりや)窯」。江戸時代に先祖が宿屋を経営していた際、相馬藩の藩主から「この地にとどまれるように」という願いを込め、船の錨にちなんだ屋号を授かったと伝えられています。
35年以上のキャリアを持つ13代目の山田慎一さんは、「お客様にとっては、届いた一つひとつがすべて」という誠実なものづくりを信条とし、伝統的な技法を生かしながら、新しい表現にも挑戦し続けています。震災という大きな困難があっても、「歴史ある相馬焼を作り続けるという小さな努力の積み重ねが、福島の復興に少しでもつながれば」と山田さんは語ります。
もうひとつは、1693年に開窯した「松永窯」。一度は途絶えながらも明治時代に再開業し、現在は四代目が伝統を守っています。
ろくろを回すのは、栃木県の「益子焼」の職人として約30年のキャリアを持つ磯部大我さん。大堀相馬焼の伝統の中にある華やかさに惹かれて2026年に栃木県から福島県へ移住しました。震災後に地域で活動する陶芸家の苦労を肌で感じた磯部さん。同じ作り手として、「みんなで一緒に盛り上げたい」と、松永窯でものづくりに向き合っています。
光と影を通して、日常に溶け込む明かり
「HIBI-Ne」には、「伝統工芸の美しさが一番伝わるかたちで、毎日の暮らしのなかに取り入れてほしい」という想いがあります。従来の食器ではなく、空間を照らす「ランプシェード」を選んだのもそのためです。
繊細な「青ひび」は、ライトに明かりがともると幻想的な模様となって浮かび上がり、窯出しの際に響く、貫入の音を思わせます。大堀相馬焼の色や質感を生かしながら、見せ方を変えることで新鮮な表現が生まれました。
「この製品をきっかけに、大堀相馬焼や、その故郷である福島に興味を持ってもらえたらうれしい」と、山田さん、磯辺さんは語ります。
歴史を重んじながらも、従来の枠にとらわれないアプローチで、大堀相馬焼の魅力を伝えている「HIBI-Ne」。
明かりをともすと、青ひびの表情が光のなかに浮かび上がります。職人たちの情熱と、幾多の試練を乗り越えてきた300年の歴史が織りなす光が、あなたの日々を優しく照らしてくれるはずです。

